JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

犬の病気犬パルボウイルス感染症

原因

病原ウイルスは1978年に最初に発見された比較的新しい犬パルボウイルスで、それまでには動物では他種のパルボウイルスとして猫汎白血球減少症ウイルスとミンク腸炎ウイルスなどが知られていたので、このような他種のウイルスが野生動物の中で突然変異を起こし、犬に激しい病気を起こすものになったと考えられている。このウイルスは強力なウイルスで、60℃に熱しても1時間は死滅しない。また、アルコール、クレゾール、逆性石鹸なども無効で、次亜塩素酸ナトリウム(ブリーチ)、ホルマリンなどでようやく死滅する。このため、環境中では数カ月以上生存できるとされており、人間の靴についてどこにでも運ばれる可能性がある。感染源は犬の糞便の中に排泄されるウイルスで、これが口や鼻から次の犬に感染する。ただし現在では最初に流行したときのような、犬が次から次へと感染する激しい発症はあまりみられない。これは、全世界にこのウイルスが広がったため、多くの犬が免疫を持つようになって、多くの犬が依然として感染するけれどもほとんどの場合は症状を示さない感染に終わり、まれに無防備な子犬が感染して発病するといった状況である。感染した犬全体のうち発病するのは20%以下、死亡率は1-5%以下とされている。しかしながら、病院に来る犬は症状が激しいため来院するのであって、そのような犬では死亡率がかなり高いのも事実である。また、一部の集団飼育施設で集団発生が依然としてみられている。

症状

通常は感染後2日で、元気消失、衰弱、嘔吐、下痢がみられるようになり、それから食欲が廃絶する。発熱はあったりなかったりする。通常この時期に病院を訪れ、検査により白血球の減少がわかることが多い。感染後約5-7日で免疫ができるため、回復するものはその時期から快方に向かう。すなわち、軽度発症の犬は発症後1-2日で自然回復し、中等度発症の犬は病院で補助療法を行って3-5日で回復する。しかしながら、下痢や嘔吐が持続するものは死亡することが多い。また幼犬に多い過急性感染では、発症後1日程度で死亡するものもある。8週齢未満で感染したものは心臓にウイルスが感染し、心筋炎という心臓の病気を示すこともある。

予防

7種混合ワクチンの中に組み込まれているパルボウイルスワクチンで予防可能。しかしながら、ワクチン接種前に感染が起こってしまうと予防は不可能であるし、また母親が高度の免疫を持っていると、子犬の体内に母乳由来の抗体がかなり遅くまで残る。このためワクチンが妨害され、打ってあるのに効いていないという状態が作られる。このため接種したからといって安心していると、その後母親からの抗体は自然に消滅し、ワクチンも効いていない、無防備状態となってしまう。したがって、パルボウイルスワクチンは、遅くまで何回も接種する必要があることを覚えておきたい。

治療

ウイルスを殺す治療法はないため、対症療法・補助療法が行われる。これには、嘔吐、下痢によって失われた水分や電解質を補給する輸液療法と、腸内細菌の異常繁殖を防止する抗生物質療法がある。その他の治療としては、ショックに対する治療、嘔吐、下痢をコントロールする対症療法がある。また、血清療法といって他の犬の血清を注射する治療法もあり、これは失われた栄養分の補給に十分効果があり、また免疫増強という効果も期待できるのかもしれない。