JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

犬の病気犬ジステンパー

原因

人間のはしかウイルスに似た犬のウイルスがあり、とくに3歳未満の若いイヌ科動物を中心にジステンパーという致死的な病気を起こす。犬のウイルス病としては最も多く、発病率は25-75%と高く、また感染した動物での死亡率も50-90%と高い。ウイルスは通常のアルコールや石鹸といった消毒法で死滅するような弱いものであるが、寒い環境では動物の体外でも少しの間生存する。ウイルスは感染した犬のくしゃみその他の分泌物により広がり、母親のミルク由来の移行抗体が消失したての(大体離乳期近く)若い動物に感染しやすい。

症状

ジステンパーには若い動物を中心にみられる急性症と、それがいったん直ったかにみえたあとにみられる亜急性の発症、さらに成犬になってからみられる慢性疾患がある。急性症は、感染後約2週間でみられる。これに先だって感染後1週間で第1回目の発熱がみられるが、その後平熱に戻るので気づかれないこともある。2回目の発熱が感染後2週間位の時点でみられ、この時には鼻水や咳、結膜炎、下痢、嘔吐、脱水、衰弱がみられるようになる。鼻や眼からの分泌物は次第に粘稠な膿様になってくる。この段階で皮膚炎の症状を示すものもあるが、これは免疫が働きだした証拠で、そのような犬は一部回復することもある。しかしながら神経症状を示すものは死亡することが多い。急性症から回復した後、あるいはあまりはっきりした症状を出さずに急性期を過ぎた犬で、数週間から何カ月も経ってから神経症状を出すものがあり、これが亜急性の発症と呼ばれる。これは脳の中にウイルスが潜んでいたためである。6カ月齢より若い犬で、突然原因不明の痙攣などの神経症状がみられた場合には、ジステンパーの亜急性発症が疑われる。この時点で死亡するものも回復するものもあるが、回復しても神経に障害が残ることがある。さらにジステンパーには慢性の発症も知られている。これは4-8歳の中年の犬にみられるもので、徐々に進行して、ときに痙攣や麻痺を示す。また慢性発症の別の形は「老犬脳炎」と呼ばれるもので、6歳以上でみられ、精神的に沈うつ状態になり、眼がみえなくなり、頭を壁に押し当てたり、飼い主を認識できないようになったり、性格が変化したりする。

予防

7種混合ワクチンの中に組み込まれているジステンパーウイルスワクチンで予防可能。しかしながら、ワクチン接種前に感染が起こってしまうと予防は不可能。とくに、先に感染し、その後ワクチンをうったが感染はすでに成立しており、しかも急性期はほとんど無症状で経過した場合、遅れて亜急性または慢性の症状が出るため、あたかもワクチンを接種してあるのにジステンパーに感染したようにみえるので要注意。一見無駄に思えても、早くから何回もワクチンを接種することによってのみ、この状態は予防できることを覚えておく必要がある。

治療

ウイルス自体を攻撃する治療法はないため、発症した場合も、抗生物質で細菌の二次感染を抑える程度しか治療法はない。しかしこのような対症療法でも、行った方が回復の助けになるといわれている。その他神経症状に対しても対症療法が行われ、さらに栄養や水分の補給を行って、回復のチャンスを高める努力が行われる。