JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気トイレ以外での排尿

トイレ以外で尿や便をすることを、不適切な排泄行動と呼びますが、これには病気でそうしている場合と、行動の問題としてしている場合があります。
問題を改善するには、その原因を正しく診断することがもちろん大切ですが、もっと重要なことは、決して猫をしかってはならないということです。猫は悪意を持って行っているわけではないので、しかられても何でしかられたのかは理解できません。したがって問題の解決にはならないのです。

まずもって鑑別しなくてはならないのは、膀胱炎や腎臓病などで頻尿(がまんができない)が起こっている場合です。このためには尿の検査、腎臓の検査、糖尿病の検査などを行って、尿量が多くなる病気を探す必要があります。そして疾患がみつかったらそれを正しく治療しなくてはなりません。
行動の問題としては、後述の尿スプレー(噴霧)と尿マーキングというなわばりや繁殖に関する問題行動なのか、その他、トイレあるいは屋外の排泄場所を嫌いになった、トイレの材質が嫌い、トイレで他の動物などでいじめられる、他の猫のにおいがついたトイレが嫌い、また近ごろするようになった場所がとても好きである、衛生に対する概念の欠如(猫としてはおかしいが遺伝的に欠陥のある異常行動)などを鑑別する必要があります。

尿スプレーとマーキングは一種のなわばり行動であり、外にいる猫はすべてだれにおこられる事もなくやっている正常行動でなのです。したがって、これらは猫が家の中で飼われることによって問題となる、本能的行動のひとつでしょう。スプレーとは垂直の物体に立ったまま後ろにかけるもので雄猫に多くみられます。これはマーキング行動の特殊な形で、マーキング全般とは視覚的または臭いで印をつける行動すべてを指します。その他、爪とぎ、臭いつけもマーキング行動です。尿マーキングは水平な場所に排尿することもあるし(カーペットの上や飼い主の洋服など)、雄がスプレーの形で行うこともあります。またスプレーではトイレを使い、トイレの中に入って壁にかける場合もあります。そして、スプレーは同じ場所にかける傾向があるようです。

家の中でこれらが起こる原因としては、精神的な問題が多いといえましょう。これには、飼い主が旅行で不在であったり、食事の変更があったなど小さなものから、縄張りの問題(新しい家)、他の猫の存在あるいは新らしく猫が入ってきた、別の人間が増えたなどの、猫にとっては重大な問題もあります。また、雄猫は繁殖期にスプレーを行うことも重要です。

スプレーの治療アプローチとしては、雄猫の場合去勢がすすめられます。これで雄成猫の90%はスプレーしなくなります。また、雌猫でも避妊手術によってスプレーを行う確率は下がります。猫を1頭増やす場合は、同性にしたほうがスプレーの可能性は少ないでしょう。行動療法としては、そこにひっかけるのが嫌になるように間接的な罰を仕掛けるのもよいでしょう。これは裏返したねずみ取り(さわるとはねる)、粘着テープの粘着面を外に向けたループ、しわにしたアルミホイル、水鉄砲による待ち伏せ(だれが水をかけたかわからないことがポイント)、またその場所に水や食事を置くなどがあります(ふつうの猫は食事に尿はかけない)。また去勢しても問題が解決せず、心配や縄張りに関する葛藤が存在すると思われる場合には、精神安定薬の使用も考えられます。この場合効果には性による差はなく、成功率は約50%とされています。多くの猫が同居している場合、精神的に心労が多いので、その場合にはよく効くでしょう。精神安定薬の使用で効果がない場合には、プロジェスチンという合成黄体ホルモンによる療法が試されますが、雄猫は雌よりもよく反応するようです。ただし、副作用の可能性もある(食欲増進、副腎抑制、沈うつ、糖尿病、乳腺腫瘍)のでできれば最後の手段にしたいものです。

トイレが嫌いな場合には、嫌いになる要素を除く(他の猫にいじめられる、トイレがきたないなど)、トイレあるいは外での排泄が好きになるようにするなどがあげられます。具体的には、トイレを増やすこと(複数の猫がいる場合にはトイレは複数が望ましい)、トイレカフェテリアという方法で、5つくらいトイレのマテリアルを選ばせるものがあります。これは、一度にいくつもおけない場合には、1つの容器で2-3日おきに内容を変えて様子を見て、いちばん好きな内容でトイレをつくってもよいでしょう。あるいは、今してしまっている場所が気に入っているようならば、そこにに水や食事を置くのもよいでしょう。これは猫が食事場所や住み場所をきれいに保つという習性を利用するものです。また、やや強力な教育的指導としては、隔離しておける部屋にトイレを置いて定期的にそのトイレを使えるようになるまでいれて置くことも可能でしょう。

尿の問題への対処のポイント

  1. 以下の鑑別が重要
    病気で尿ががまんできないのではないか。
    垂直の物体に立ったままかけるスプレーか。飼い主の洋服やカーペットに臭いをつけるマーキングか。便器は汚れていないか、材料は猫が好むものか。便所で他の動物などにいじめられていないか。今している不適当な場所がとくに好きなのか。
  2. 対処法
    絶対に叱らない。
    罰を与える場合は隠れて誰が罰しているかわからないように。スプレーなら去勢、避妊を。トイレの掃除を頻繁に、または数を増やす。トイレカフェテリアで好きな材料を選ばせる。