JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気FIV検査

Q:猫のエイズ検査とはどんなものですか?
A:猫固有のエイズウイルス、すなわちネコ猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染しているかどうかの検査です。検査では特殊な方法でFIVに対する抗体を調べます。猫の血液の中に抗体がみつかれば(陽性)その猫はFIVに感染していると診断されます。人間の場合はヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しているかどうかを判定するのが、いわゆるエイズ検査です。ですから対象とするウイルスが違うので、猫の血液を人間の検査センターに送っても検査はできませんし、動物の検査センターでは人間の検査はできません。
Q:ウイルスを検出するのではなく、抗体を検出して、なぜ感染していると診断できるのですか?
A:これまでの研究で、抗体があれば95%以上の確率でウイルスが分離される(ウイルス感染が確認される)ことがわかっています。ウイルス分離を行えば一層確実なのですが、10ml程血液を採らなくてはならないこと、結果が出るまで1-2カ月要すること、などにより実用的ではありません。
Q:疑陽性というのはないのですか?
A:どんな試験でもある程度疑陽性はつきものですが、FIV検査の場合は5%以内と低く抑えられています。これは人間のエイズの検査でより精度の高いとされている確認検査法(蛍光抗体法)と同じ検査法を最初から採用しているからです(もちろんウイルスは猫固有のFIVを使っていますが)。しかしながら、これでも疑陽性の発生は0ではないので、検査センターでは疑いのある結果が出た場合には、さらに精度の高い確認検査(ウェスターンブロット法)が用意されています。
Q:健康診断の際に採血してFIV陽性と診断された猫ですが、現在健康でとてもエイズには見えないのですが?
A:FIVに感染していること=エイズではないのです。発症していないものは無症状キャリアーと呼び、発症猫とは区別しています。実際に都会では外に出ている健康な猫の12%がFIV陽性なのです。発症がひどくなって、いわゆるエイズの基準を満たすもだけがエイズと診断されます。それでは現在健康な感染猫がこの先どうなるのかという問題ですが、分かっていることは、感染から何年もたってから病気が重くなるものが多いが、何も起こらない場合もあるということです。
Q:FIV陽性と診断されてしまった猫に救いはあるのでしょうか?
A:必ずしもFIV陽性=エイズではないのですから、現在の状態次第では治療法も考えられます。したがって救いが全くないわけではないのです。ただし、ウイルス自体を攻撃する治療法は現在のところありません。まず、現在発症していなければ、小さな問題が生じるたびに正しい対症療法を行ってゆけば、これから先かなり生きられるのではないかと思われます。また、発症中の猫では、症状にもよりますが、抗生物質などで治療可能のものもあり、実際に治療によってその場は命をとりとめる場合もあるのです。FIV感染症は急性の感染症ではないので、このために急に死亡することは多くありません。それでは猫の寿命は一体何年かというと、外に出している猫の平均寿命は約4歳です。そして多くのFIV陽性猫はこれよりも長く生きているのです(死亡平均年齢5.7歳)。猫を外に出すと決めた以上、交通事故や他のウイルス感染症など危険要因は沢山ありますので、別にFIVにかかったからといって死期が早まるわけではないと思います。
Q:1頭陽性がいれば同居の猫はすべてかかりますか?
A:かかるものとかからないものがいて、この比率は平均すると半々くらいでしょうか。けんかをしない間柄ならばほとんどかかりません。もちろん感染猫は家の中で飼う必要があります。外で他の病気を拾わないように、他の猫にFIVをうつさないようにという配慮です。また新しく猫を外から拾ってきた場合など、家の中に入れる前に検査をうけるようにすれば、それまでいた猫は安心です。
Q:FIV陽性で症状も沢山見られ、明らかにエイズのような猫を飼っているのですが、これからどうしたらよいのでしょうか?
A:全身状態がきわめて悪化してしまうと、獣医師の努力にもかかわらず不幸な結果となる場合が多いものです。獣医師はこのような場合、いろいろな検査をして、望みがどれくらいあるかという予後の判定を行います。したがって、客観的にみて予後は悪そうだという場合もあるでしょう。また、現在調子の悪い原因が1つ明らかになって、それを直せば延命は可能という判断が下されるかも知れません。そのような場合でも、病院で診察を受けたからこそ延命が可能なのであって、もし見放されていれば、すぐに死亡してしまうかもしれません。とにかく自分の目で判断しないで、診察を受けることです。そして重要なのは、ストレスのない生活を猫が送れるということで、これには変わらぬ飼い主の愛情が一番でしょう。重篤なウイルス感染症と考えずに一種の慢性疾患と考え、気長に治療を受けるようにしてください。
Q:FIVに感染した猫は安楽死させるべきでしょうか?
A:まず安楽死とは何のためにするものか考えて下さい。あくまでも動物のためを思って、動物の苦しみが強いときに、苦しみから救ってやれる唯一の方法が安楽死しかないときに、初めて考えるものなのです。ですから、汚いなどという勝手な理由で猫を安楽死させるべきではありません。したがって、すべてのFIV感染猫を安楽死させるというのは行き過ぎた考えです。病状が進み、とても回復の望みがないときには考えるべきでしょうが、そうでなければ人間やいぬに対する危険もないので、エイズという言葉に惑わされずに飼ってあげるべきです。