JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気ノミのコントロール

暖かい季節になると、人も動物たちも生き生きしてきますが、同じように害虫たちも元気になって、中でもノミと蚊は、動物にとっても人間にとっても大敵です。本格的なノミのシーズンに備え、先手を打ってノミのことをよく知り防御を固めるための講座です。

ノミによる被害というのは、人間にとっては刺されて痒くなるくらいのものしかないかもしれませんが、動物にとっては重大な影響となることがあります。まず、猫の体の調子が悪いときのことを考えてみましょう。そもそもきれい好きな猫の体に多数のノミが寄生するというのはおかしなことなのです。すなわち、グルーミングをしなくなるほど体調が悪いということが第一に考えられます。そのような猫では毛並みが悪く、黒いつぶつぶのノミの糞がたくさん毛の中にみられます。そんな場合には、なぜグルーミングができなくなったのか、体調はどうなのか、血液や尿の検査、ウイルスの検査などで病気の診断を行う必要があるでしょう。

 

そして、多数のノミが寄生した影響としては何が起こるでしょうか。ノミは人間や動物から血を吸って生きているので、非常に多くのノミが寄生していれば、長期間にわたって多量の血を吸われることになります。これは重大な貧血の原因になります。この貧血は、赤血球が失われるだけでなく鉄分の不足も起こるので、鉄欠乏性貧血と呼ばれます。

ノミが吸血した部分の皮膚には、軽いかゆみが出たり赤くなることがありますし、また激しいかゆみを掻き崩したり、あるいはざらざらの舌でなめて毛が薄くなってしまうこともよくあります。また、もっと大変なのは、ノミに対してアレルギーが起こった場合です。アレルギーはノミの数には関係なく、1匹でも吸血すると、ノミの唾液に対して激しい全身のアレルギー反応が起こります。ノミのアレルギーでは、背中の部分にぶつぶつの皮膚病ができることが多く、同時にノミの糞がわずかでもみられたら、ノミのアレルギーが強く疑われます。さらに唇が潰瘍を起こしてそげてしまう病気や、頚などの皮膚が広く脱毛して大型の湿疹のようになる病気は、一部はノミのアレルギーが関係しています。ノミはまた、条虫(さなだ虫)の蔓延の原因ともなります。これはノミがさなだ虫の幼虫を持っていて、ノミの吸血の時に猫の体内に虫が入るからです。

 

ノミの退治はノミの生活を十分理解して、効率よく、そして徹底的に行う必要があります。すなわち、どこにどんな薬を使ったらよいか、どこをどうやって掃除したらよいかというのは、ノミがどんなふうに生活しているのか知らないことには、計画が立ちません。

 

まず、ノミは動物の体だけにいるという考えは誤りです。もし猫の体に1匹のノミがいたとしたら、回りの環境中には100匹のノミがいると思ってください。しかし、動物の回りで100匹ものノミが飛び跳ねているわけではありません。実はノミの予備群ともいえる幼虫やさなぎの形で隠れているのです。雌のノミは猫の毛の中に1回に20個くらいずつ、一生に数百もの卵を産みます。それが床に落ちて2日から20日かけて幼虫に発育します。

卵が落ちる場所というのは、猫がよく寝ている所、飛び降りて着地する所などです。そしてその場所の温度と湿度が良好で、しかも人通りなどが少ない隠れた場所で、直射日光も当たらないという条件を満たすと、幼虫が発育します。幼虫の餌になる成ノミの糞が落ちる必要もあるので、卵が落ちる場所はたいてい発育にも適しているのです。具体的には猫用ベッドの中や下、人間用ベッドの下、畳の隙間などが考えられます。そして温度その他の環境条件にもよりますが、10日から200日かけて脱皮を3回行い、さなぎになります。さなぎからは1週間たてば成虫が出てきますが、場合によっては1年間じっとしていてそれから成虫になることもあります。

 

それではノミを退治する場合、どこを狙ったらよいのでしょうか。まず成熟したノミ、すなわち動物の体についているのを退治する必要があります。これは1匹もいなくなるようにしてやらないと、とくにアレルギーの猫では治療効果がありません。動物の体についたノミを瞬間的に、しかも1匹残らず殺してしまうのは、ノミとり櫛でていねいにとってやることも可能ですが根気がいります。この目的にはピレスリンの入ったスプレーが最適です。ピレスリンは天然の除虫菊の成分で、人間にも猫にも一番安全です。ピレスリンは即効性がありますが、効果の持続はないといわれています。しかしながら、現在の製品では、毎日スプレーしなくても、薬効成分がマイクロカプセルから徐々にしみ出すタイプのものがあるので、心配ありません。また猫に使いやすいムースタイプも売られています。このような成虫駆除は同居動物すべてについて行う必要がありますが、たとえ外に出て行く猫でも、この方法ならば効果的です。

 

ノミとり首輪や皮膚滴下式の薬もありますが、すぐに成ノミを殺すという点ではピレスリンに勝る効果はありません。したがって補助的に使用するのがよいでしょう。とくにノミアレルギーの猫は、ノミ1匹に吸血されてもかゆみや皮膚病はおさまらないので、ノミが吸血すると薬が効く滴下式の薬では、ノミを減らすことはできてもアレルギーの解決にはなりません。

 

次に環境のクリーニングです。猫の寝床は定期的に清掃します。タオル、毛布類はノミの幼虫の繁殖場所になりやすいものです。そして床がカーペットの場合は、毎日徹底的に掃除機をかけます。掃除機のゴミパックは殺ダニ用を使うか、あるいはノミとり首輪の切れ端を入れて使用します。ノミの幼虫の好む場所、すなわち畳の隙間、タンスの隙間など影になったところにはダニ用スプレーまたはダニ用パウダーを散布します。またダニ用パウダーの散布もよいでしょう。

猫が飲む薬で、昆虫成長阻害薬(インセクトグロースレギュレータ)が入ったものが出ていますが、これは猫についた成ノミより環境中のノミを減らす効果を期待するものです。吸血したときにこの薬を飲んだノミが卵を生んでも、成ノミにまで成長しないので環境中のノミを減らす効果があるのです。

 

このようにノミの駆除は、動物の体と環境(家の中)で、別に違う方法で行います。さらにアレルギーという問題を解決するためには、すぐに1匹もいない状態をつくってやる必要があります。