JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

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猫の病気糖尿病

体の中の細胞はぶどう糖(グルコース)をエネルギー源にして生きています。グルコースは食べ物の中に含まれ、腸から吸収されて肝臓に行き、肝臓や筋肉の細胞の中ではそれが数多く連なった形のグリコーゲンという物質の形で保存されていまず。そして必要に応じて、血液の中を流れて他の部分に運ばれて行きます。血液の中のグルコースの濃度を血糖値(血液の中の糖の濃度という意味)と呼び、常にある範囲に保たれています。この血糖値はインスリンという膵臓から出されるホルモンでほぼ一定範囲内にコントロールされています。空腹時には血糖値は比較的低いものですが、低血糖になりすぎるとけいれんが起こったりぐったりしてしまうため、常に一定以上の値は保たれています。また逆に血糖値が高まると、尿の中に糖が捨てられるようになり、体の中の様々な代謝に悪影響がでて、食べるのに痩せるなどの症状が現れます。インスリンが出なくなったりその効き目が悪くなって、いつも高血糖が続き、尿に糖が捨てられる病気が糖尿病です。

猫の糖尿病の種類

猫の糖尿病にはインスリン依存性というものと、非インスリン依存性というものがあります。インスリン依存性の方が圧倒的に多いのですが、膵臓の中のランゲルハンス島というインスリンを出す部分が破壊されて、インスリンが分泌されなくなったために起こる糖尿病です。それに対して非インスリン依存性糖尿病はインスリンの分泌がやや悪いか、あるいは分泌されていても、肥満などでインスリンの効き目が悪くなっているものです。

糖尿病を疑う症状

このように糖尿病の原因は一つではないので、体重一つをとってみても、肥満の場合と激しく痩せている場合があります。すなわちインスリン依存性糖尿病の場合は食べるのに痩せるのが特徴で、非インスリン依存性の場合は肥満のために糖尿病になるということです。しかしながら、共通の症状としては、水をよく飲んで尿が多量に出る多飲多尿、食欲の増進があります。その他尿が濁ったりする(尿の中に膿や細菌が出る)こともよくあります。

糖尿病の診断

病院で血液の検査を行う場合は、普通は夜食べたら朝は抜いて、病院に行きます。したがって病院では空腹時の血液を調べることになるのです。ここで血糖値を測定してそれが高く、さらに尿の中に糖が出ていれば(出ないのが正常)、とりあえず糖尿病が考えられます。その他尿の中にケトンという物質が出ていれば、炭水化物代謝に完全に異常があることがわかり、しかも危険な状態が差し迫っていることが考えられます。

糖尿病の治療

猫が痩せていて、呼吸が荒く。尿にケトンが出ている糖尿病の場合には、糖尿病性ケトアシドーシスと診断され、入院で緊急治療が行われます。この場合、危機を脱するまで、点滴とインスリンの注射が続けられます。そして状態が落ちついたところで、家庭でのインスリン療法に切り替える準備が行われます。またケトアシドーシスほど激しくない病気の場合は、この家庭内でのインスリン療法の準備から始まります。

インスリン依存性糖尿病の場合、一生インスリンを使い続ける必要があるので、治療は家庭で毎日注射によって行われます。このため病院ではどんなインスリンをどれくらいうったらよいのかを決めるための検査を行います。インスリンの量が決まり、猫の血糖値が安定するまでは通常1カ月位は必要で、この間毎週1-2日ほど入院して、詳しい検査を受ける必要があります。猫に毎日注射をするのはかわいそうと思うかも知れませんが、これによって猫は生きて行くのですから責任重大です。

また、インスリンの量が多すぎると低血糖が起こり危険な状態になります。したがって、インスリンを注射している猫では、常に低血糖に備え、砂糖水なども用意して置く必要があります。一部の猫は、結局インスリン非依存性であって、後にインスリンの量を減らしたり、また注射が不要になる場合もあるので、このように繰り返しの検査が必要なのです。また食餌療法も大切なので、飼い主はカロリーコントロールを指示されたとうりに厳密に行う必要があります。
肥満の猫で、尿にケトンは出ていないようなものであれば、インスリン非依存性糖尿病である可能性が十分考えられます。このようなものでは、最初にインスリンを使うことはあっても、徐々にインスリンの量も減らし、結局インスリン療法を終わらせることも可能かも知れませんし、そのためには食餌療法で減量することがポイントです。さらに、インスリン治療なしに、食餌療法のみ、あるいは経口血糖下降薬(のむ薬)で血糖値を下がられることもあります。

糖尿病の猫の食餌療法

糖尿病の猫の食事は、多量を1回に与えるよりも、少量の食餌を数回に分けて行うのがよいとされています。これは、毎食後に起こる高血糖を最小限にし、血糖値の変化を抑える意味もあります。1日何回も食べる猫には1日中自由に食べられるようにしてやり、1回に大食いの猫では理想的には、昼のうちに少量の食餌を3-4回与えるのがよいでしょう。
体重コントロールが必要な場合は、粗線維を多量に含む療法食を利用します。しかし体重コントロールは、獣医師の指導のもとに徐々に行わないと、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝という病気が発生するので危険です。安全な減量のためには、2-4カ月かけて徐々に目的体重へという努力が必要です。最初から痩せた猫には線維を多量に含む食餌は与えません。
猫は療法食に変えた場合、気に入らないで食べないこともあります。そのような場合は少し暖めるなどの工夫が必要でしょう。頑固に食べない場合、待ってよいのは36-48時間だけということをおぼえておいてください。健康維持のためには何かを食べることが先決で、高線維を食べないにしても何かを食べなくてはなりません。したがって食べない場合には、無理に線維食だけにこだわるのではなく、何でも食べさせて、すぐに獣医師に相談してください。