JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎)

症状

猫汎白血球減少症ウイルスという猫のパルボウイルスが原因の病気です。とくに子猫や若い猫が発病しやすくウイルスに感染してから短い潜伏期間で(数日)急に症状が出ます。またきわめて伝染力の強いウイルスが原因なので、同腹の子猫が次から次へと発病することも珍しくありません。最初の症状は元気と食欲がなくなることで、水も飲まなくなり、じっとうずくまった状態になります。このときさわってみると熱があるのがわかるかも知れません。次第に嘔吐が激しくなり、脱水症状がみられるようになります。下痢はあるものとないものがあるようです。激しいものでは血便がみられることもあります。この病気では体が細菌などと戦うために必要な白血球が非常に少なくなるので汎白血球減少症という正式の病名がつけられていますが、白血球がなくなったために、いろいろな病原体に対する抵抗力が一次的に下がります。この時期に脱水がひどくなり、体温も低くなると良くない兆候で、不幸にして助からない猫もたくさんあります。病院では血液の白血球数を調べ、水分、栄養の補給に努め、猫自身の力でウイルスに打ち勝つのを助けるようにします。回復した猫には強力な免疫ができ、終生この病気にはかからなくなります。妊娠中の母親が感染すると、ウイルスは胎盤を越えて胎児にかかり、流産や死産がみられたり、分娩の前後に子猫に感染すると、脳に異常を持つようになることがあります。

予防

猫汎白血球減少症のワクチンが猫用ワクチンとしては一番古くからあり、多くの猫が接種をうけ、確実に予防効果がみられています。初年度に早くから遅くまで(通常は16週)何回もワクチンを接種し、さらに6ヵ月齢から1歳齢にかけて追加接種を行った猫は、ほぼ終生に近い免疫ができるとされています。通常は念のため、4歳、7歳というように、3年毎の追加接種が勧められています(WSAVAワクチン接種ガイドライン2015年版)。一方では、ワクチン接種を受けない野良猫、捨て猫が屋外で増え続けています。このようなワクチン接種を受けていない猫がいる間は、ウイルスは次々に感染して行って絶えることはないでしょう。したがって家から一歩出れば、そこはウイルス汚染環境です。とくに猫汎白血球減少症の原因となるパルボウイルスは強いウイルスで、人間の靴についてどこにでも行って、そこに無防備な猫がいれば感染してしまいます(洗剤やアルコールでは死なず、ブリーチかホルマリンしか効果がありません)。このような恐ろしいウイルスから猫を守るためには、厳重に家の中に閉じこめて玄関にも出さないか、あるいはワクチン接種をすることしかありません。厳重な閉じこめというのは現実的ではありませんし、実際に高層マンションで飼われている猫でも発病があることから、人間が道に落ちているウイルスを運んでしまうことは防ぎようがないと思われます。したがって子猫の時期から正しいワクチン接種を行なうのがベストで、現在健康に暮らしている猫の多くは、そのようにして守られているのです。