JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気口の中を痛がる

猫には口の中の病気が比較的多くみられますが、猫が口を開けるのをいやがるため、症状がかなり進行してしまってから診察を受けることが多いようです。

歯の周囲に起きる病気を歯周病と一般に呼び、この状態が悪くなると歯を支える組織がもろくなって、歯と歯の周囲の歯肉の間にすき間ができて歯はぐらぐらになります。歯肉が赤くただれた状態をとくに歯肉炎と呼びます。早期のものでは、歯の根本の歯肉が歯に沿って線状に赤くなっているだけです。口の中には細菌が住み着いていて、もっと悪い細菌の繁殖を抑えていますが、炎症が起きて粘膜が損傷されると、口の中の細菌も粘膜から侵入して、さらに激しい炎症を起こすようになります。

原因の一つとして歯石があり、歯石をとったり歯をぬくことによって治療できる場合もあります。しかし多くは口の中の免疫、抵抗力の減退が重要な原因になっています。ネコ免疫不全ウイルス(FIV)やネコ白血病ウイルス(FeLV)などのウイルス感染で免疫力が低下しているものが多くみられますが、ウイルスは陰性でも、原因は不明のまま免疫力が低下しているものもあります。

口内炎は口の中の炎症全般を指す言葉ですが、組織がカリフラワーのように盛り上がったもの、潰瘍になるものなど様々な形がみられます。これも直接の原因は細菌の感染ですが、本質的な原因としては免疫力の低下が考えられます。また歯が当たるところにできたものは歯を抜くことで治るかも知れません。

特殊なものとしては、急性の潰瘍が口の中や舌にできるものがありますが、これはカリシウイルス感染によるもので、普通は1週間位で治るものであるし、もちろんワクチンを接種してあれば起こらないので、ここでは特に問題にしません。 また好酸球性肉芽腫群という病気では、唇が潰瘍になったり、舌に腫瘤ができることがあります。これらはすべてノミや食事に対するアレルギーが原因と考えられているので、それらに対する治療を行えば大したことにはなりません。老猫では口の中に扁平上皮癌などの悪性腫瘍ができて、これが口内炎にみえることもあります。

口内炎を疑う症状としては、口が臭い、よだれが出る、食べるとき痛がるなどがあります。口の中を開けて、歯肉や他の部位の粘膜が赤くただれていたり、腫れたように盛り上がったり、あるいは出血していれば口内炎があります。口内炎がみられた場合には必ずFIVやFeLVの検査が必要です。また好酸球性肉芽腫群や悪性腫瘍を診断するために、組織をとって病理診断を行うこともあります。

治療法は口腔内の消毒によっていつも清潔に保つこと、細菌を抗生物質でコントロールすること、あるいは炎症を薬で抑えることです。ただし口腔内の癌については切除したりする必要もあります。炎症をコントロールする薬としては、副腎皮質ステロイドの注射、あるいは内服がよく使われます。少ない量の内服、あるいは1カ月以上あけて注射を行うのであれば、副作用の心配もあまりないでしょう。しかしながら、慢性化したものではかなり治療が難しいのも事実です。

したがって、予防と早期発見が非常に重要です。子猫のころから口を開けること、あるいは口の中の消毒や歯磨きに慣らしておけば、予防にも早期発見にも役立ちます。また食事も小さな時から歯石のつきにくいものがすすめられます。