JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気肥満

猫で食事関連の異常としては肥満が最も多いものです。肥満の定義は、その猫の品種で年齢、性別を考えた理想体重より15%以上上回ったものです。しかしながら、雑種の猫の場合は理想体重というものはあるのでしょうか。また純血種でもこの理想体重がわからないと肥満かどうかは判定できないものでしょうか。実は他にもみただけで肥満とわかる方法はいくつかあります。ここではどのように肥満をみつけるか、なぜ肥満が悪いのか、なぜ肥満になるのか、どうしたら肥満をなくせるかを説明しましょう。

肥満の見分け方

猫の胸を篭のように包んでいる肋骨という骨が何本もあります。この骨の上の肉や脂肪の付き方で肥満がわかります。痩せている場合には、肋骨がでこぼこみえます。ただしこれがわかるのは毛が短い猫だけです。適正体重の場合には、肋骨は目でみて出っ張ってはいませんが、さわるとすぐにわかります。そして肥満の場合には、肋骨が手でさわってもなかなかわからないくらいに、肋骨の上を脂肪が厚く被っています。 そのほかの見分け方としては、食事中など座っているときに後ろから観察する方法があります。後ろからみて、すいかのように丸くみえたなら、多分肥満です。とくに縞のあるタビーの猫などは、すいかそっくりにみえます。また顔が横に広い、おなかが両側、または下側に出っ張っている、立っているときにおしりがやけに大きくみえる、歩くとおなかが横にゆれる、などが外観上の肥満のサインです。実際の体重からは、猫の品種毎に標準体重があるため、一概には肥満かどうか判定しにくいものですが、ごく一般的にいって、成猫の体重は4.5-5.0kg位までが標準といえるでしょう。

肥満に伴う病的な症状もあります。動きが鈍くなる、遊んでいてもすぐに疲れて横になる、呼吸が苦しそうなどの問題がそれです。ただしこれらは心臓病や肺の病気でもみられる症状で、心臓病で水が体内に溜まり気味になっても太ってみあることがあります。したがって、このような外観、あるいは症状がみられたならば病院に行って、その猫の標準体重を獣医さんに見積もってもらい、そして体重測定の結果や身体検査から、本当に肥満であるのか、肥満であれば何%位肥満なのか、どの程度の減量が必要なのかを判定してもらいましょう。

肥満と病気

肥満になると健康に悪いのは明らかです。まずもって、生命の維持には体の各部分に血液と酸素を送らなければならないわけですから、心臓も呼吸も体が大きくなったことで負担が増加します。とくに運動時には、酸素の要求が高まるために、呼吸が早くなったりします。また重くなった体を支える関節や骨に負担がかかるのは目にみえています。また体をまげるのがおっくうになると、グルーミングも少な目になり、皮膚や外部寄生虫の問題も増えます。その他、肥満が原因で糖尿病になることもあります。糖尿病の原因は多くの場合、血液の中のぶどう糖の濃度、すなわち血糖値を調節するインスリンというホルモンが出なくなるものですが、肥満の場合は脂肪が増えたために、インスリンは出ていても効き目が悪くなることが原因です。

肥満の原因

食事としてとったカロリーが常に多すぎて、全部使いきれないと、残った分は脂肪として蓄えられてしまいます。これが肥満の原因となります。このようにオーバーカロリーになる原因としては、食事が多すぎる、運動が少ないため消費量が少なくなるなどが考えられます。外を歩き回って事故にあったりする確率を下げ、長生きを願って雄の去勢を行いますが、活動が低下することによって、肥満が多くなるのも事実です。したがって、このような場合、カロリーコントロールやよく遊んでやることによって、肥満を防止することも必要でしょう。また去勢や避妊手術で体重が増えるのには、ホルモンバランスの影響もあるようです。特定の代謝の病気が原因で肥満になることもあります。これは病気によって代謝が下がり、あまり栄養を使わないようになるからです。しかし、肥満の原因のほとんどは、食事のとりすぎと運動不足です。

減量作戦

ここまでに書いたように、原因の多くは食事と運動であるので、この両面から減量にチャレンジするのがよいでしょう。といっても、かなり大変なことで、また正しく減量を行わないと、健康を損ねることにもなります。一般に、1kgの脂肪を削ろうと思ったら、7000カロリー以上使うか、あるいは7000カロリー以上食べ物を制限しなくてはならないのです。これは大変な努力が必要で、しかも徐々に行う必要があります。
運動による減量は飼い主の努力と猫の協力が必要なため、かなり難しいものですが、減量法としては安全です。基本的にはストレッチと走り回り、上下運動が効果的です。毎日一定時間遊んでやれる時間を作り、おもちゃを上の方に持ち上げて、猫がそれに対して体を伸ばすような遊び、紐や針金のついたおもちゃを引き回し、猫に追いかけさせる遊び、台のついたポストを床から天井まで立てて、猫に登らせるなどが効果的です。またハーネスがつけられる猫は外に連れて出て散歩させるのもよいでしょう。

食事療法による減量に当たっては、必ず獣医師の指導を受けてください。肥満の猫に急激な減量を行うと、脂肪肝という命にかかわる重大な病気が起こります。大体のガイドラインとしては20%減程度で食事を与え、徐々に減量して行きます。病院で目標体重を算出してもらい、その体重に何ヵ月もかけて徐々に到達するよう、毎月の目安を決めましょう。また療法食という病院でしか入手できないものには、あまりおなかをすかせないで、カロリーだけ制限して減量が行える優れた食事もあります。

肥満のガイドライン

  • 肋骨がさわれない
  • 後ろからみてすいかにみえる
  • おなかがゆさゆさゆれる
  • 顔もおしりもおなかも大きい
  • 抱いてずっしりと重い

安全な減量

  • 遊ばせて運動量を増やす
  • ゆっくりと根気よく
  • 急な食事制限は絶対しない
  • 食事療法は必ず獣医師に相談
  • 食事療法中はおやつはあげない