JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

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猫の病気脱水症

体の70%は水分からなり、血液の主要な成分も、体の各部分を作る細胞もほとんどは水が占めています。また細胞の中で栄養分を代謝するのにも、水は欠かすことができません。
体の水分が欠乏した状態を脱水と呼びますが、口から入る量が少なくなった場合、あるいは多量の尿、下痢や嘔吐で捨てられる水分が多くなった場合に起こります。猫が水を飲んでいるところはあまりみかけないかも知れませんが、缶詰などの湿った食事をとっている場合にはそこから多くの水分をとっています。したがって、食欲不振というのも脱水の原因としてよくあるものです。
野生の猫は獲物をとって食べますが、そのような獲物はたいてい70%が水分で、残りの半分が蛋白、半分が脂肪です。したがって野生の猫の血を引き継いでいる飼い猫も、これに似た食物を好んで食べます。このため缶詰などの湿った食事を与えられている猫では、そう頻繁に水を飲むところをみなくても異常ではないでしょう。
猫用の缶詰は1缶が約180g入りで、1缶には約80%の水が含まれ、1日1缶食べるとすると、それだけで144mlの水分を飲んだのと同じことになります。また2缶食べる場合には、288mlの水をとることになります。実際には、脂肪が代謝されるときに体の中で少し水ができるので、これよりも多く水を飲んだことになるでしょう。ところで普通に生活していても尿や便、あるいは吐く息の中に水が失われるわけで、これが1日で約200ml程度になります。したがって、1缶食べて少しは水を飲んでいれば、あるいは2缶食べていれば、水の量は十分ということになります。
ところが1日の水の必要量は、気温が高い、病気で熱がある、運動量が多いといったことで多くなりますし、また下痢や嘔吐、多尿(腎臓病などで尿の量が多くなること)など、捨てられる水が病的に多くなっても当然増加するものです。
食欲がなくなった場合には体に入って行く水分量が減ります。まったく食べていなくて、水も飲んでいなければ、水はまったく補給されていないということです。すなわち水分は常に失われているので、絶対に補給が必要です。1日水も食事もとらなければ、差引き200ml以上の水が不足していることになります。そしてそれが2日になれば400ml以上の不足になります。
実際には食欲がないというのは、多くの場合熱がある、他の病気で調子が悪いということですから、呼吸が苦しくて口を開けて呼吸する、熱がある、あるいは激しく嘔吐しているなどで、失われる水の量も多くなります。ということは、1日の不足分には、健康でも失われている200mlに、さらに病気によって余分に失われている量が上乗せされるのです。
このように食欲不振がみられる、あるいは失われる水分が多い状態では、脱水の症状に注意してください。脱水は、毛や皮膚の状態でわかります。毛並みが悪く、皮膚をつまんですぐに戻らなければ明らかに脱水しています。もっとひどい脱水では、目がくぼんでしまいます。少しの間の食欲不振や嘔吐ならば脱水の量は5%未満で、猫の体をみても変化はわかりません。病院で血液の検査をして、やっと軽い脱水があるのがわかる程度です。その後食事や水をとっているようなら別に問題はないでしょう。しかしながら病院に行った場合には、脱水の原因があったことを正確に話すべきです。
嘔吐や下痢がやや長く続いた場合には6-8%の中くらいの脱水になります。この場合には、皮膚の張りが悪くなり、口の中の粘膜も乾き気味になります。そして長期の食欲不振、激しい嘔吐、慢性の多尿(慢性腎不全など)があった場合には高度の脱水となり、10-12%が足りない状態で、症状は一層はっきりしたものになります。12%以上脱水があればショックが起こり、生命は危険な状態となります。このように脱水の症状がみられた場合には、病院で水分を補給してもらう必要があります。病院では、栄養のバランス、水の必要量などを計算して、口からの投与、静脈内への点滴、あるいは皮下注射で脱水を直します。
脱水は生命に危険が迫っているということを十分知っておいてください。1日以上水も食事もとらない、激しく吐いている、激しく下痢している、尿の量が多いがあまり水は飲まないなどの脱水の要因が考えられる場合には、すぐに病院に行くことをおすすめします。